野生のパンジー

文化人類学の話

野生のパンジー

 フランスの文化人類学者、クロード・レヴィ=ストロースが1962年に発表した『La Pensée Sauvage』という本がある。発音すれば「ラ・パンセ・ソバージュ」、英語と日本語でそれぞれ『The Wild Mind』、『野生の思考』という訳語が与えられている。penséeが<思考>、sauvageが <野生の>といった具合だ。

 ところで、この本の表紙にはパンジーの写真が使われている。これは言葉遊びの一種だ。penséeには、<思考>のほかに<(花の)パンジー>という意味がある。つまり『La Pansée Sauvage』は<野生のパンジー>と訳すこともできる。当ブログの名前は、ここからきている。

 さて、レヴィ=ストロースが言う野生の思考とはどういう思考を言うか。ここでは簡単に紹介することにとどまる。文化人類学はいわゆる「未開」な人々ないしは社会を研究する学問である(「未開」についてはまた別の機会で説明する)。従来の研究では、未開民族の思考・知能は比べて劣っていると考えられてきた。しかし、彼らが劣っているとみなされていたのは、彼らの論理が我々の論理とは異なるためであり、彼らは我々とは思考の質が異なっていることが無視されていたのが原因である。彼らは、我々のように抽象概念を作り出してものを解釈するのではなく、既存の材料をうまく使いこなしながら彼ら自身の論理に基づいて解釈していたのである。これこそがレヴィ=ストロースの言う「野生の思考」なのであり、つまり彼らの思考はブリコラージュであるとも言える。これ以上の説明は文化相対主義構造主義の説明に触れる必要があるため、詳しいことはまた別の機会に書こうと思う。

 ここで、このブログの筆者である私自身の話を少しする。私は都内のある大学で文化人類学を専攻している4年生である。卒業後は大学院に進学し、文化人類学を研究しようと考えている。文化人類学専攻とはいえ、まだまだ学習の歴は浅く、文化人類学者にある、多くの抽象概念や知識、それを理解するための思考を持ち合わせていない。このように文化人類学の分野でいまだ「野生」たる私自身が、日ごろ学んだことのブリコラージュの思考を整理する場としてこのブログは存在している。そして何より、今秋控える大学院試験の前に少しでも文章を書くという練習をする必要を感じたのである。