野生のパンジー

文化人類学の話

おわり

このブログ?的な不定期刊行物を終わりにします。 もとはと言えば、大学院受験の論文対策とか卒論執筆にむけて文章を書く練習と脳内整理のために始めたのですが、大学院に進学してからおよそ1か月が経ち、もはやこのブログに意味を見いだせなくなったし普通…

想像と共同体

ベネディクト・アンダーソンが『想像の共同体』を発表してから30余年が経った。同著は今なお共同体に関する議論においては必ずと言っていいほど参照される。議論の内容は吟味され、精緻化されあるいは反駁されてきた。「想像の共同体」という用語は、今や当…

黒塗り:理想的なマイノリティ

ブラックペイントの話である。ガキ使の年末特番『絶笑ってはいけないアメリカンポリス』が終わって1か月経った。例の浜田雅功さんの黒塗りが、コメディー界のタブーがどうとか黒人差別の歴史がなんだかんだと話題を引き起こし、ネット上で様々な議論が飛び交…

暴力と共同性

・暴力と「非人間性」 熊は暴力を振るえるだろうか。奇妙な問いかもしれないけど、暴力という概念を理解するためにはちょうどいい題材のように思える。熊が人里に降りてきて人間を襲うというようなニュースは毎年耳にする。襲われた人間は大けがを負ったり、…

歴史、因果、恣意性

歴史ってなんだろう。「日本の歴史」とか「クリミア戦争の歴史」、あるいは「思想史」とか呼ばれるそれらのもの、それらが共通してもっているものはなんだろうか。いろいろ考えることができる。あらゆる出来事を時系列に沿って並べたものを歴史というのだろ…

人種を脱構築

・人種と民族 さて、また問題のある話題である。人種。人種と民族という人間を分ける2つの方法の違いくらいは知っているでしょう。今更説明するほどのことでもないとはわかっていながらもちょっと説明しよう。民族っていうのは人間を文化的な特徴によって分…

規則に従うということ

・「赤信号で止まり」ながら「規則に従う」 なんかどうも規則に従うとはどういうことか勘違いしてる人がいるみたい。先に書いた文章、「文化と呼ばれるさまざまなことがら③」で挙げた体系性の話を友人としていた時の話。あの文章で言いたかったのはつまり、…

文化と呼ばれるさまざまなことがら③

・「社会的なるもの」 人類学は本当に他者表象の学問だったのだろうか。そうでないとすればどのような学問だったのだろうか。人類学の歴史を見るに、必ずしもそうではなかった。むしろ、個人や民族と呼ばれる集合態に還元しえないような「社会的なるもの」の…

文化と呼ばれるさまざまなことがら②

・他者表象への批判 人類学は他者表象の学問だという認識が一般的である。人類学といえば〇〇人、〇〇族のあるいはそれらの社会・文化の研究をする学問であると自己を規定し、また他者からもそのように思われていた。人類学が対象として取り組んできたことが…

文化と呼ばれるさまざまなことがら①

・そもそも<文化>とは何ぞや? 私は文化人類学を専攻しているが、よく親や友人から「なんの研究をしてるの?」と聞かれる。困った質問である。その場合はたいてい、本当は違うのだがいちいち説明するのも面倒なので「フィジーの文化です」と答える。しかし…

思考メモ:支配

支配という言葉で想像するのは「AはBを支配している」のような状態、まあつまりBに対するAの優位性なんだけど、ちょっと考えるとこれって「BはAを支配している」ともとれるんじゃないか。というのもAがBを支配という関係の中においてるとき、その優位性はBの…

現実を構成する想像力

前回書いたオカルト・物語・想像力についての記事で参照した浜本満が別の論考で、前回出てきた現実構成的想像力に関してより詳細な説明をしていたので脳内整理のためにまとめようと思う。 ---------- ・「現実」対「想像」 私たちはオカルト的な語りが「想像…

オカルト、想像、物語

卒業論文の参考文献の一つを読み進めていくうちに、私が普段から考えている、人々の「信仰」に関してまさに目から鱗ともいえるような説明がなされていた。忘れないうちにメモをしておこうと思う。以下は参考にした文献の情報である。 浜本満 (2014)『信念の…

うんこはなぜ汚いか

・うんこは「わたし」? タイトルを見て、何を言ってるのかと思った者もいるだろう。そんなの疑問に思うまでもない、汚いものは汚いのだ、臭いし、雑菌だらけだ、だから汚い、そういうものだ、と言われても納得がいく。しかし、においで言えばくさやや納豆だ…

境界性②

時間と空間というのは本来連続的なものである。しかし人はそこに人為的に境界を作りだし分節化する。最もわかりやすい例は、時間だ。わたしたちは、時間を1年や1日という単位でとらえ、1日を昼や夜といった名前で知覚する。しかし、時間は本来絶え間なく流れ…

境界性①

「夕暮れ時」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。どこかロマンティックだったり、哀愁が感じられる。あるいは何か「神秘的」なものを感じるかもしれない。何にせよ何がしかの特別な雰囲気を夕暮れ時は醸す。ここでひとつ疑問を投げかける。なぜ「夕暮れ時」…

野生のパンジー

フランスの文化人類学者、クロード・レヴィ=ストロースが1962年に発表した『La Pensée Sauvage』という本がある。発音すれば「ラ・パンセ・ソバージュ」、英語と日本語でそれぞれ『The Wild Mind』、『野生の思考』という訳語が与えられている。penséeが<…